HuRP通信 2022/11/02
蝶をたよりに
初夏のある日、我が家のベランダで育てている植物の鉢の下に、アワ粒ほどの小さな黒いフンを見つけました。フンの主は、山椒の木(約30cm)の葉を完食したキアゲハの幼虫で、丸裸になった細い幹には立派な青虫が3匹!!インターネットで調べると、キアゲハが食べる木は柑橘系の葉っぱだけ。昆虫が苦手ながらも「広い空から、これっぽっちの小さな木をよく見つけたなぁ」と感慨深く思い、卵を産み付けた蝶の持つ鋭い嗅覚に驚きながら、新たな「エサ」を用意するために近所のホームセンターに走りました。当面は「この子たちを蝶にする!!」と、“青虫見守り隊”としての新たなミッションに燃えていましたが、そろそろさなぎになりそう……というところで、2匹の青虫は蜘蛛に捕食されてしまいました。さなぎになるための準備で、雨に濡れない場所を探していた青虫たちですが、彼らが見つけた軒先は、蜘蛛にとっても快適な場所であったようです。残った1匹はさなぎになるまでは育ったものの、うまく羽化できずに力果ててしまいました。それに対し、幹だけになってしまっていた山椒は、夏も終わりを迎えるころ、新たな葉を揃えました。来年に備えて、より一層大きく育とうという気概を感じています。
時折かわす、ある尊敬する先生との往復書簡の中では、度々「蝶」の話題が挙がります。アフガニスタンの山岳部は高山に生息する貴重種「ウスバシロチョウ」の生息地であること。高山蝶は息を呑むほど美しいこと。蝶に関することを教えていただく中で、先生は彼の地がタリバンに再び支配されたことによる影響を危惧されていました。爆撃で町が壊され、村、森が焼かれ、日々、そこに暮らす人や動物、昆虫たちの生活が脅かされています。
件の書簡を通し「蝶」に興味が湧く中で、2019年12月にアフガニスタンにて凶弾で倒れた「ペシャワール会」代表の医師・中村哲氏は、「蝶」が結んだ縁でペシャワルに赴任したと知りました。子どものころから虫や蝶の観察が好きだった中村氏は、福岡の山岳会からパキスタンにあるヒンズークシュ山脈登山への医師としての同行を依頼され、二つ返事で赴任を承諾したそうです。ヒンズークシュ山脈周辺はモンシロチョウの原産地といわれ、原始の蝶を自分の目で確かめてみたかったといいます。この時の同行をきっかけとして同地に縁ができ、日本キリスト教海外医療協力会からペシャワル赴任の打診を受け、その後の人道支援へと繋がっていきます。
拙宅の小さな植木に居場所を見つけた蝶。その様子からは、蝶の生息できる場所がどんどん追われていってしまっているように感じます。それは世界に広がる難民の人々の姿にも重なります。蝶にとって快適な地は、人間にとっても暮らしやすいはず……。誰にとっても平和な日を迎えられますように。
(K・K)
参照:中村哲「新・家の履歴書」週刊文春2885号(2016年)106-109頁